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 正札シール組合>2019新春講演会
 
 田中祐 全日本シール印刷協同組合連合会会長講演 全文
 東京都正札シール印刷協同組合(田中浩一理事長)は1月10日(木)午後3時30分から、東京・台東区の上野精養軒で全日本シール印刷協同組合連合会の田中祐会長(東京都正札シール印刷協同組合副理事長)を講師に「2019新春講演会」を開催した。「シール印刷とブランド戦略 “ゆでガエルにならないために…”」をテーマに行われた講演の全文を紹介する。     
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 皆さん、あらためまして、明けましておめでとうございます。本年もよろしくお願いいたします。ただ今ご紹介いただきました、全日本シール印刷協同組合連合会で会長を仰せつかっております、田中でございます。会社のほうは山王テクノアーツ株式会社という、八王子でシールの会社をやっておりまして。1時間お時間をいただきまして、「シール印刷とブランド戦略」ということで、去年の11月に日印産連さんが行いました若手の印刷業界人向けのセミナーで、ちょっとこういったテーマでお話をさせてもらったんですけれども、その内容をベースに、ブランドのお話だけに関わらず、マーケティングの事例を幾つかご紹介をさせていただければなと思っております。どうぞよろしくお願いいたします。
 全日本の会長を仰せつかって、いろんなところでこういうようなお話をさせていただく機会をいただいているんですが、実は正札さんでこうやってオフィシャルにお話をさせていただくのは、今回が初めてですね。なので、ここにいる人だけにスペシャルなお話をさせていただければと思います。どうぞよろしくお願いいたします。
 本日の内容なんですけれども、まず、そうは言っても、簡単に自己紹介と自社の紹介をさせていただきまして、その次に日本のラベル市場のトレンド、こちらは、L9という世界の各国のラベルの業界団体が集まった世界会議というのが去年の11月にインドでございまして、そこに行って来て日本の紹介をしたときのスライドを、ちょっと翻訳したものを持ってまいりました。
 続きまして、有名な経営学者のドラッカーさんの言葉で、「マネジメントとは、マーケティングとイノベーションである」というのがあるんですけれども、ちょっとこちらの言葉からひも解いていって、マーケティングの事例を3つほど、ブランディング、これはお客さまのブランディングと、皆さん自身の自社のブランディング、そういったお話がまず1つ目。
 2つ目がSWOT分析とクロス分析という、自社の置かれている環境を分析する方法、このお話。そして3点目は、マーケティングというよりは営業戦略的なお話なんですが、顧客のセグメント分析ということで、これは僭越ながら、私ども山王テクノアーツ株式会社で最近行っているお客さまの分析の仕方をちょっとご紹介をさせていただこうと思います。こんな内容で1時間行きたいと思います。
 知った仲ですので、途中、何かご質問等があったら、ぜひ止めていただいて、インタラクティブにいろいろディスカッションしながら進められればいいかと思いますので、何かあったら手を挙げて質問していただいて全然OKですので、その方が盛り上がりますので、ぜひよろしくお願いいたします。
 では、まず、私、何者かということなんですけれども、私は1970年に東京都で生まれまして、今48歳です。早生まれ、3月生まれですので、もうすぐ49になります。大学卒業後、証券系のシンクタンクに3年ほど勤めておりまして、その後、外資系のIT企業に転職をして、丸9年そちらで、ITの業界にずっといたんですが、その後、今の会社、山王テクノアーツに2004年から入社しまして現在に至っております。
 もともとサラリーマンの家の男3人の真ん中で、自分もずっとサラリーマンでやるつもりだったんですけれども、何のご縁か、結婚をする相手の家がシールの印刷の会社をやっておりまして、そこは娘さんしかいなかったので婿に入ってくれと言われて、結婚を申し込みに行ったら、そのまま会社も付いてきちゃったみたいな形でやることになりました。
 そういうバックグラウンドですので、当然業界の経験はない状態で、全くの素人から始めました。本当に右も左も分からない状態で、印刷はおろか、シール印刷、ラベル印刷、そういう特殊印刷という分野も全く知らない状態で入ったわけなんですけれども、それからちょうど15年目になるんですかね。
 15年が経ちまして、一昨年から全日本シール印刷協同組合連合会、今、皆さんいらっしゃる正札やラベルさんの上部団体と言うか、全国の各協組を取りまとめる連合会の会長というのを仰せつかって、今やっております。
会社のほうは、ちょっとこちら、切りのいい数字、50、70、90というのでまとめてみたんですけれども
※画像はすべてクリックで拡大されます。
、もともとは3Mの特約加工代理店、販売店として、1967年に設立されました。ですので、今年で52期目になります。今52期目に突入をしたところでございます。本社と工場が東京の八王子にありまして、現在従業員が70名ほど在籍しております。この後お話しするんですけれども、当社、主に航空関係と鉄道関係のお仕事をメーンにやらせていただいておりまして、特に航空宇宙業界では90社を超える企業さんと直接取り引きをさせていただいているというのが大きな特徴でございます。
 シールやラベルというふうに呼ばずに、飛行機で使われる張り物はデカルだとかサインだとかプラカードという言い方をするんですけれども、こういったものを中心にやっておりまして、今、大体お仕事の比率で言うと、航空関連が60%と。あと、鉄道関連とその他の一般工業系が40%、こんな比率でやっております。
 事例としては、こういった屋外で使われる比較的大き
なマーキングをやらせてもらっています。例えば、ピーチアビエーションさんというLCCがあるんですけれども、この「peach」って、もともとあるところは塗装でやっているんですが、これはピンク色のフォルクスワーゲンが出たときに、それとタイアップして、これは大きな、インクジェットで出力して、ここに巨大なシールを張っているような状態なんですね。こういったものをやったりだとか、くまモンをやったりだとか。今どこへ行ったか分からないですけれども、篠田麻里子さんの「マリコジェット」なんていうのもやらせてもらいました。
 あとは飛行機の内装で、これは機内食だとか飲み物とかを運び出すキッチンのところですね。ギャレーというんですけれども、ここで使われているさまざまな表示物ですね。例えば、この棚には最大何キロまでしか
品物を積んじゃ駄目よだとか、このオーブンは熱を持つから触っちゃ駄目よだとか、そういった注意書きなんかというのを、航空業界の規格にのっとって、難燃性であったりだとか、不燃性であったりだとか、そういった特徴のあるものを作っております。
 あとは電車関係では、やはり外側、内側、両方やらせてもらっているんですけれども、新幹線のマークが比較的目立つところでは大きなものとしてやらせてもらっています。昔はこういうシンプルなデザインで、大判のシルク印刷でやっていたんですが、最近の新幹線では、これは北海道新幹線なんですけれども、インクジェットでも十分な耐候性が出せるということで、最近はインクジェットでのグラデーションであったりだとか、かなり凝ったデザインのマーキングというのもやらせてもらっています。あとは電車のラインですね。ここもシールなんですけれども、こういったものも当社で扱わせていただいております。以上、自己・自社紹介でした。
 日本のラベル市場トレンド   
 日本のラベル市場のトレンドというテーマでインドでお話をさせてもらった
んですけれども、ちょっとその内容を皆さんにも共有をさせていただきたいと思います。もともとは英語でパワーポイントを作って、外人さんの前で英語で15分間のプレゼンをやりまして、3回受けを取ることができました。それだけで満足みたいな、そんなところだったんですけれども、そんな話はどうでもいいんですが。これは元のデータはラベル新聞社さんが発行しております、『日本のラベル市場2018』という、あの冊子から使わせていただいております。どうもありがとうございます。
 まず、ラベル全般で見たときに、さまざまなラベルが
ありますね。われわれが主に扱っております粘着ラベルから始まって、シュリンクだとかインモールドだとかグルーってあるんですけれども、これらを全部合わせた生産高を100万平方メートルという単位で棒グラフにしたものがこちらです。2013年からここ6年ぐらいあるんですけれども、少しずつ、少しずつ伸びているというのが分かると思います。
 少しずつ伸びてはいるんですが、ただ、粘着ですね。ぼくらが普段やっているシール・ラベルというのは実はそれほど伸びていない。全体の伸びに比べるとほぼ横ばいか若干の微増という形です。じゃあ、何が伸びているかというと、やっぱりこのシュリンクなんですね。シュリンクというのが今どんどんどんどん伸びて、さまざまなパッケージの分野で使われているというのが分かると思います。
 では、横ばいかもしくは微増と言われている粘着紙、粘着フィルムなんですが、こちらの用途別の内訳というのを見てみますと、次のページの円グラフになるんですけれども、粘着ラベルの用途ですね。これが割とそんなにうれしい話じゃないんですけれども、粘着ラベル、横ばいだから、われわれ現状維持で、マーケットのサイズはそんなに変わらないというふうに思われがちなんですが、実はこの粘着ラベルの中でも、この円グラフの右半分、ちょうど50%を占める部分が今は可変情報ラベルになっています。特に熱転写の可変情報のサーマルラベルと呼ばれるものが非常にその比率を増やしていると。
 例えば、スーパーの食品の賞味期限であったりだとか、製造者であったりだとか、ああいったもの、簡単なラベルプリンターでサーマルでぴっと出して、その場でぺっと張ってやりますよね。ああいったものが実はどんどんどんどん増えていて、その結果として、粘着ラベルがほぼ横ばいということなんですね。ということは、逆に言いますと、われわれが普段やっているお仕事、これらの仕事は実はじりじりじりじりと減っているということなんですね。「従来型の印刷機しか保有しない典型的なラベル印刷会社」って、まさにわれわれのことを言っているんですけれども、このわれわれのマーケットサイズというのは、実は年々徐々に縮小しているというのが現実でございます。
 なので、じゃあ可変情報のラベルが増えているんだったら、そういったものが得意なデジタルの印刷機をどんどん入れればいいじゃないかと皆さんお思いになるかと思いますが、ただ、ここで1つ大きな問題があって、後継者の問題というのがあって、ビジネスオーナーさんは、今、新しい設備投資に非常に消極的だというふうに言われております。後継者の問題というのは、要は家業を継ぎたくない息子さんが結構最近いらっしゃるということですね。ここにいらっしゃる若手の青年部のメンバーなんていうのは、本当に奇特な人たちばっかりで、腹くくって家業を継いでやろうじゃないかと、しょうがないというので継いで、今も頑張ってくれていると思いますが、そういった人ばっかりじゃないということですね。世の中には。
 おやじのころは、本当にバブルのころですか、よくシールやラベルというのはお札を刷っているようなもんだと。刷れば刷るほどじゃんじゃかじゃんじゃか売れてもうかってしょうがないと。ただ、最近は価格競争だとかで全然もうけがなくて、そういった、つらい、苦しいおやじの姿を見ていると、俺も何か継ぐのは不安だなと。なので、どこか大きい会社に就職して、サラリーマンでやっていったほうが楽だなだとか。ましてや、新しい設備を導入して、借金を背負い込むなんて嫌だななんていう人が結構いて、なかなか積極的な設備投資に踏み切れないんじゃないかなというのが現状なんじゃないかなと思います。
 世界の団体の集まったところで、このお話をさせてもらったんですけれども、一方で、中国だとかインドだとかメキシコの方が来ていたんですけれども、それぞれの国が15分ずつのプレゼンをやるわけなんですよ。こんな消極的な寂しい話をしているのは日本ぐらいなもんですね。あとはみんな、いけいけいどんどんで、どひゃあという派手な映像を流して、じゃんじゃかじゃんじゃか機械が動いている映像をバックに、「今年はデジタル印刷機が国内で何十台、何百台売れました」だとか、「年10%平均でここ数年ずっと成長を続けています」だとか、すごく明るい話を皆さん、していましたね。これからの新興国と、成熟した経済でこれから日本がどうなっていくのかというところで、かなりそういう意味で温度差があるなというのが正直な印象ではありました。
 ただ、僕のプレゼンをした後、カクテルパーティみたいな感じで立ち話をしていたんですけれども、FINATの会長さんが、イギリスの方だったんですけれども、その人がちょちょっと寄って来て、日本の田中さんは面白い話をしてくれたと。実は俺たちも一緒なんだよというようなことをぼそっとおっしゃっていましたね。シールやラベルの印刷企業というのは、日本だけじゃなくて、世界的に大きな会社さんというのは極々少数で、やっぱり中小の会社が多いんですね。
 いわゆるファミリービジネスと言っていたんですけれども、家族で経営していて、そこから徐々に従業員さんを雇って、少し大きくなって、でもオーナーはオーナーでその家族が継承するというようなところは、日本と非常に、そういう意味では会社の成り立ちが一緒なんですけれども、そういったところで、あまり表には出てこないけれども、ヨーロッパだとかではそういうような問題も最近ちょっと出てきて、非常にM&Aが活発になっているというお話でした。なので、仕事が集まるところにはどんどん集まって、そこに小さな会社もどんどん吸収をされて、大きなところはさらにどんどん大きくなっていって。小さなところは、言葉は悪いですけれども、淘汰されていってしまうような、そんな状況なんだなんていうお話をイギリスの方がされていました。
 そんな形で、こういう数字だけ見ていると、非常に先行きが不透明と言うか、むしろ暗いお話になってしまうんですけれども、そんな中でも、日本はまだ頑張っているよというので、2つの事例を紹介させていただきました。
 まず1つ目が、技術目での成功事例ということで、日本は組合で勉強会を非常に活発にやっていると。技術研修会を活発にやっているよと。特に特徴的なのは、日本は毎年、皆さんご存じのとおり、ラベルコンテストをやっていますけれども、そのラベルコンテストには規定課題と自由課題と2つのジャンルがありますね。そのコンテストの前に行う研修会と、コンテストの後に行う研修会と、大きく2つのタイプがあって、コンテスト前の技術研修会では、規定課題をテーマにして、同じお題をもとに、いかにきれいに上手にラベルをつくるかということをみんなで研究し合うということをやっています。
 コンテストの後の技術勉強会では、これはあまり関東では聞かないんですけれども、九州だとか大阪のほうでは結構やっていらっしゃるそうなんですけれども、入賞した作品を題材にして、どこがよかったのかだとか、どういうような加工をしているのかだとか、そういうのをみんなでいろいろと調べて研究をするだとか、そういったことをしていらっしゃるそうです。なので、こういった地道な活動が高品質なラベルを製作するための、業界全体の技術力の底上げに役立っているんじゃないかなというふうに言うことができるんじゃないかなと思います。
 もう1つの事例としては、工場の管理の面です。工場の管理の面では、こちらも九州の事例なんですけれども、5年ほど前から九州協組で工場長会というのを始めております。こちらはその名前のとおり、各会社さんの工場長が集まって、いろんな意見交換をしたり情報共有をしたりというような場なんですけれども。その主な目的としては、工場の管理ですね。品質管理、生産管理、設備機器管理、人事管理、カイゼンの手法であったりだとか、ICTの活用であったりだとか、そういったことを皆さんで紹介し合って、いいとこ取りでみんなで勉強しているということをやっているそうです。
 1つ特徴的なのは、忌憚のない意見交換を行うために、社長さんは原則立ち入り禁止というルールでやっているそうなんです。なので、現場の長だけが集まって、いろいろな勉強会をやっていると。これもやっぱり海外の人たちには驚かれまして、日本と雇用の関係と言うか、西洋の考え方で雇い主と労働者の力関係だとか、日本で考えるよりもよっぽど違うんでしょうね。そんな現場の人間だけが集まって話し合うなんて、考えられないなんて言われました。
 ただ、日本でやっているのも、幾つか不文律での禁止事項、タブーというのがありまして、例えばお互いに給料の話はしないだとか、そこで出会った人を引き抜かないだとか、一応そういうルールをもとに九州ではやっているそうです。こういった取り組みが今、全国のその他の地方の協組でも徐々に徐々に盛り上がって、今、皆さん、始めていらっしゃるというところがあります。
 
 
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